サッカーのこといろいろ書いちゃうブログ

フリーのサッカーライター(tomo2take)が、取材で感じたことや、気になったニュースなど、そのときどきで書いていきます。

2014年 第5節 清水エスパルス vs FC東京 MR

2014年 第5

清水エスパルス vs FC東京 MR

 329日 IAIスタジアム日本平 1500分~

 

 

■メンバー

◇清水

先発:

GK 1櫛引 政敏

DF28吉田 豊

DF 3平岡 康裕

DF 4カルフィン ヨン ア ピン

DF17河井 陽介

MF20竹内 涼

MF16六平 光成

MF10大前 元紀

MF11高木 俊幸

FW18ノヴァコヴィッチ

FW 9長沢 駿

 

サブ:

GK21相澤 貴志

DF 2イ キジェ

DF19ヤコヴィッチ

MF 5村松 大輔

MF 7本田 拓也

MF 8石毛 秀樹

FW23高木 善朗

 

監督:

アフシン ゴトビ

 

 

FC東京

先発:

GK20権田 修一

DF 2徳永 悠平

DF 3森重 真人

DF29吉本 一謙

DF 6太田 宏介

MF 7米本 拓司

MF34野澤 英之

MF 8三田 啓貴

FW14武藤 嘉紀

FW11エドゥー

FW17河野 広貴

 

サブ:

GK 1塩田 仁史

DF50松田 陸

MF 4高橋 秀人

MF18石川 直宏

MF38東 慶悟

FW 9渡邉 千真

FW13平山 相太

 

監督:

マッシモ フィッカデンティ

 

 

■フォーメーション

◇清水

----------長沢--------

高木俊----ノヴァ----大前

------六平----竹内-----

河井-—キャラ-平岡---吉田

----------櫛引---------

 

FC東京

------武藤----エドゥ----

----------河野---------

三田---------------米本

----------野澤---------

大田---吉本--森重---徳永

----------権田---------

 

■スタッツ

□得点

◇清水:

長沢 駿(5分)

FC東京:

河野 広貴(44分)

森重 真人(57分)

米本 拓司(82分)

 

□警告・退場

◇清水:

56分 竹内 涼

71分 イ キジェ

FC東京:

48分 エドゥー

50分 森重 真人

90+2分 渡邉 千真

 

■交代

◇清水:

64分 竹内 涼 → 高木 善朗

70分 高木 俊幸 → イ キジェ

81分 吉田 豊 → 石毛 秀樹

FC東京:

72分 河野 広貴 → 東 慶悟

75分 エドゥー → 平山 相太

85分 武藤 嘉紀 → 渡邉 千真

 

■レポート

試合後、元清水の大田が「(試合の分岐点は?)元紀のPKじゃないですか」と言うように、あそこで2点目を奪っていたら清水が勝利を掴む可能性はかなり高かったかもしれない。

 

前半、早い時間帯(5分)に長沢が先制ゴールを決め清水がリードを奪った。FC東京は順位通りというか、成績通りというか内容にやや迷いがあった。特に攻守の切り替えに関してはバタバタと表現したほうがいいかもしれない。それでも、エドゥーと河野、武藤という3人が連携し、誰かが引いて受けて、そこから縦パスで裏を狙う、もしくはミドルシュートを狙うという形と、遅攻の場合は左サイドに展開し大田のクロス(特にDFGKの間)という2つの武器で攻撃を組み立てる。これが清水の最も苦手とするライン裏への対応を見事に突いていた。中でも、何度かキャラがゴールに向かって追いかけるシーンがあったと思うが、そういう形を作ることでFC東京は徐々に流れを引き戻した。すると、前半終了間際には武藤のシュートから、GK櫛引が弾いたこぼれ球に河野が反応し同点に追いつくことになる。前半のうちに11にしたことでFC東京がまだ行けるというメンタルを保つことになる。

 

それでも後半の立ち上がりにネジを巻き直した清水が、再び攻撃で圧力をかけリズムを引き戻しにかかる。そうやってPKを獲得したまでは良かった。しかし、冒頭にも書いたように大前のシュートがGK権田に止められると、FC東京が息を吹き返した。セットプレーから森重に2点目、カウンターから米本に3点目を決められ清水の敗戦が決まった。これで順位もFC東京に抜かれ16位。降格圏内へと落ちた。

 

しかし、試合の分岐点は大前のPK失敗じゃない。

むしろ、同点にされたあとのチームのマネージメントだ。

 

今の2ボランチの選択は悪く無いと思う。しかし、相手とのパワーバランス、もしくはシステムや得意とするスタイルで相性が悪くなる可能性があることを痛感した試合だった。ポゼッションをしたい。または、繋いでくるチームに対しては竹内、六平は守備の技術も向上してきているし、もともと技術もあるので適任かもしれない。だが、縦に急ぐチーム、もしくはカウンターを得意とするチームを相手にした場合は、やや相性が悪い。ゴトビ監督はDFラインを高く保ちたいし、そうやってコンパクトな形からボールを繋いで攻撃をしたい。実際そういう要求をする。しかし、裏にボールを何度も入られると全体が間延びしてしまう。そうなると中盤を省略したゲーム展開となり、この2人の特長は活きない。もっと言えば、カウンターやロングボールでひっくり返される展開を考えると、彼らの特長は出しにくい。その意味ではあまりこの試合では良さを出せなかった。

 

逆に言えば、前半のいい時間帯は六平が的確なポジショニングからボールを奪って、持ち上がりスルーパスというプレーも出ていた。また自らシュートを打つシーンもあったことから分かるが、バランスを取りつつ前に顔を出すことで前線に攻撃の厚みを与えた。つまり、地上戦ならばこれだけのことを普通にこなすことができる選手だと思う。

 

また、ここにきて見えてきたのが長身2トップの使い方。長沢、ノヴァコヴィッチという強力な武器を活かすためにはボックスの中で勝負をしたい。190cmオーバーのFW2人居るというのは、Jリーグではそうそう無いため相手にとってはかなり脅威。それは間違いない。そのため、この2人のストロングポイントを強めるためにもチームとしては極力前線で勝負して欲しい。特に、今回のような、ボールが行ったり来たりする試合になるとその意識が強くなる。しかし、ここに弊害が生まれる。特に同点とされてから、逆転されてからは前に張り付くので、中盤がポッカリと空いてしまう。そうなると、チーム全体の意識統一が難しい。特にバックラインは相手のカウンターを恐れるため、攻撃に出るときの形、崩しの形が雑になる。リスクを考えると、サイドからのアーリー気味のクロスか、ロングボールを蹴るばかりとなる。また、相当なアップダウンを繰り返すためスタミナ配分も考えなければならない。そうなると相手CBからすれば、視線に入る前から来るボールに対して跳ね返すのは簡単な作業となり、更にこのこぼれ球に詰める選手が清水には居ないので、FC東京はボールを拾い攻撃に移行できる。そうなると行ったり来たりという展開に拍車をかけてしまう。そして、清水はそういう展開のサッカーは苦手なのに、その傾向を更に強めたのが4132システムへの変更。このメッセージは攻撃に力を入れる意図だったのは間違いないが、あまりにも意識が前に行き過ぎたことでボールの落ち着かない急いだ展開になった。結果論かもしれないが、失敗すれば博打と呼ばれても仕方がない乱暴なシステム変更だった。

 

いずれにしても、試合を見ていて、こうしたスクランブルの状況は練習でもやっていないだろうなという印象があった。何故ならば、こうした戦術(スクランブルのシステム等)は時間をかけて普段の練習とは別に、合間、合間で時間を取ってやらないと身につかない。相手が1人退場になり数的有利となったときの状況や、逆に自分たちが10人となったときのシステムや戦い方など、こうしたスクランブルに備えて月に1回か2回、時間が取れる時にやる。もしくは無理矢理にでも入れていく。そうやってチームの土台は積み重なって強くなる。そして、そういうことができるチームは強くなる。しかし、現状ではなかなかそこまでできていないように見える。新加入選手も多く仕方がない部分、怪我人の多さなどエクスキューズもあるが、指揮官が就任してもう4年目だということは忘れてはいけない。

 

とはいえ敗戦を嘆いても仕方がない。まずは攻撃の形、そこから連携した守備への修正をして水曜日のナビスコ杯に挑みたいところ。スケジュール的にも日数は無いし、メンバーの変更もありそうだが、逆に考えればチャンスでもあり、即効で可能な修正部分だけ注視させるという方法もある。そういう意味では、いい勉強になった、分岐点になった、という試合にしたい。

 

ちなみに、清水はもともとカウンターが得意なチームだと思う。特に大前、高木俊の2人は個人でのアイデアも技術も申し分ない。過去にもこの2人だけで得点を奪うシーンが何度かあったと思うが、彼らのスキルはJリーグでもかなり高いと思う。しかし、それはあくまでも個のスキルであり、チームの戦い方、狙いではない。そういうことも含め状況に応じた戦い方、これからのチームの狙いを明確にしないとならない。


(C) 2014 tomo2take

2014年 J1第5節 清水エスパルス vs FC東京 PV

2014年 J15

清水エスパルス vs FC東京 PV

 329日 IAIスタジアム日本平 1500分~

 

 

■予想先発メンバー

◇清水

----------長沢--------

高木俊----ノヴァ----大前

------六平----竹内-----

河井-—キャラ-平岡---吉田

----------櫛引---------

 

FC東京

------渡邉----エドゥ----

----------三田---------

-----------------米本

----------高橋---------

大田---森重--加賀---徳永

----------権田---------

 

 

■プレビュー

3月最後の試合となるが、清水はここまでナビスコ杯を含めた5試合で212敗と五分の成績。しかし、リーグ戦では112敗の勝ち点4で順位は15位と降格圏内の一歩手前にいる。開幕戦こそ名古屋に勝利したが、その後はやや勝利に見放されている。対するFC東京も開幕から勝利がなく22敗の勝ち点216位。新監督を迎えたがなかなか調子が上がってこない。

 

清水のスタメンは、前節の浦和戦とほぼ同じと考えている。村松の状況や本田のコンディションなどもあるが、負けていないチームの状況をポジティブに捉えれば変更する理由はない。そうなるとポイントはダブルボランチの出来だろうか。浦和戦では前半こそ攻撃でのポジティブなアクションが見られたが、後半に入ると浦和の勢いに押され対応するだけで精一杯という状況だった。最後の最後に六平が決定機を創りだしたが、その1発のみだった。そう考えると、90分を通してダブルボランチがどのように試合を組み立てていくのか。試合のリズムを読んで、どのような流れをチームに与えることができるのかというのがキーとなる。もし、浦和戦の後半のような状況が続くようならば、本田、杉山らがすぐさま投入されることとなる。

 

そして、もう1つ。リーグ戦で気になっていることがある。それは守備面。ナビスコ杯では仙台を完封したものの、リーグ戦ではまだ1度も完封がない。C大阪戦は勿論だが、浦和戦でも攻撃を受ける時間が長く耐える時間が多かった。それでも、そうした状況下で後ろの守備陣はよく踏ん張っているように思う。しかし、そうなる理由としてチーム全体の守備の仕方に問題があるように感じている。特に2トップが攻撃的なイメージがあるためか攻め残りの時間が多いので、相手のDFラインにプレッシャーをかける時間をもう少し多くしていきたい。3枚の交代枠を使いきれるのならば、前線にフレッシュな選手を入れ、プッシュして後ろを助けるのもFWの役目である。

 

しかし、この試合が終わるとすぐにナビスコ杯も控えているため、指揮官がどのようなプランを持っているかも試合の後半には影響する。主力に休みを与えるのか。それとも、ナビスコ杯はターンオーバーを想定して若手で挑むのであれば、スタメンを長く引っ張るという可能性もある。いずれにしても、プレスの行き方、交代枠の使い方までを含めどの選手をどの時間帯に使うのかというとこrまでが、この試合ではポイントになる。また当然だが、次のナビスコ杯にも影響があるということを頭に入れて見て行きたい。

 

 

(C) 2014 tomo2take

無観客試合の取材を終えて 振り返り、雑感など

Jリーグが開幕して22年という歴史の中で行われた初の無観客試合を取材してきた。しかも、浦和レッズの担当ではなく、アウェイチームの担当としてだ。勿論、歴史的な試合ということもあってメディア世界に居る端くれとして、また、少しのジャーナリズムを持つものとして、多少の興味もあったのは間違いない。しかし、断じて興味本位ではないということは言っておきたい。

 

この試合には多くの取材陣が詰めかけていた。普段サッカーの現場ではみないような、全国ネットのアナウンサーなども見かけたので、この場所がこの日に限り、どれだけ注目されているかを感じた。しかし、どこもかしこもスポーツ取材というよりは、ニュース、報道の色が濃かったように思う。

 

ちなみに普段、埼玉スタジアムに取材に行くときは最低でも試合開始2時間前に到着するようにしている。埼スタは駅から歩いて行ける距離であり、Jリーグが開催されるスタジアムの中でも割りと近いほうだ。しかも、駅からスタジアムまではメディアバスも運行されている。しかし、普段は駅前の道が渋滞しているため早めに行動していないと時間が読めない。そのため、状況によってはバスを諦め歩いて行くことも多かったため、早め早めの行動が必要となる。

 

しかし、今回に限りその必要は無かった。

 

その傾向は行きの電車からあった。普段ならば赤と黒のマフラーや上着を着た人、長い棒に巻き付いた旗や、弾幕に加え着替えなどの大荷物を抱えた人たちが終点に近づけば近づくほど増えていき、電車の中はザワザワとしてくる。時には、携帯サイトを見たり、エルゴラを手にしたサポーター同士が、あーでもない、こーうでもないという話をしている姿が普通だった。しかし、この日は新橋で電車を乗り換え、その後、溜池山王で南北線に乗車したが埼玉高速鉄道に接続し浦和美園駅に向かうものの、終点に近づくほど車内はガラガラになっていった。途中、浦和サポーターらしき(エンブレム入りの上着を着ていた)年配の二人組に遭遇したが、手前の東川口で降車していった。行き先は分からないが、もしかしたらスカパー!が見られるスポーツバーにでも行って、ビール片手に試合開始を待つのではないかと想像した。

 

駅に到着するが、降りてくる人は少なかった。しかも、メディア関係の人ばかりだと予想していた通りで、同じ電車を利用していた知り合いに2人も合った。そして、改札を出ると既に数名のスタッフが立っていた。「本日は公園内への立入が禁止です」と、プラカードを持って大きな声でアナウンスをしている。しかし、おそらくこの駅には両チームのサポーターは1人も居ないはずだ。そう思うと虚しいアナウンスだが、便宜的には必要なことだった。

 

そして、階段を降りてロータリーに向かう。するとガランとした駅前が広がっていた。試合開催日なのに人が居ない。駅前には乗用車が2台ほど停まっていたが、それは地元の人が家族か友人なのか、だれかを送迎するために使っていただけのようで、これも普段ならば見ることはできない光景ではないかと思った。

 

そして、メディアバスに乗り込む。10分程度待ったが、発進すると僅か数分でスタジアムに到着した。これも普段の試合がある日では考えられないほどスムーズだった。あれもこれも想像以上に早くスタジアムへ向かうことができたことが拍子抜けというか、肩透かしを食らったような感覚に襲われた。そして、取材という本来の意味を忘れそうになり、ふと自分はここへ一体何をしに来たのか?という疑問にさえ変わっていった。

 

殺風景な景観と同様に、この日限定の違和感があるとすれば、要所、要所で等間隔に立つ警備、スタッフの数と、その様子を収めるメディアの数だろう。大きなTVカメラを担ぐ人、三脚を立て写真を取る人など、そういう雰囲気はなかなかお目にかかれないものだった。実際、僕らがメディアバスから降りて受付に向かうところもTVカメラでバッチリと撮られていた。今日はこういう映像が必要とされる日。そういうことを改めて感じさせた。

 

 

所属と氏名を述べ、申請したFAXを提示し、受付でIDを貰いスタジアムに入る。いつもなら記者室に直行するのだが、知人の記者に「今日はお弁当とお茶が無料で配れているから」と言われたので、その窓口に行きありがたく頂戴した。これは初のことだった。その理由は単純だ。無観客試合のため、スタジアム内の全ての売店が開いていない。そのため、メディア関係者も買い物ができないので軽食が振る舞われたのだった。僅かな心遣いではあるが、こういうホスピタリティは素晴らしいと思った。しかし、こんなときに、こういうところにまでの気遣いができるのならば、何故ここまで酷い事態になる前に対応ができなかったのか?と疑問が生じた。と今更言っても遅いが。ただ、ちょっとしたことだけど、相手への配慮、気がつくことができればと思った。最大限できることをしていれば、ことが起きてしまったとしてもニュースソースを受ける側の印象の差は違ってくるだけに残念に思う。

 

記者室に着くと、そこは多くのメディアで溢れていた。そして、空いた席が殆ど無い。TVクルーも多く、聞くところによれば系列で2社までという制限が出ていたという。アウェイの試合といえども夕方の番組までに静岡のキー局でも映像が当然必要となる。だが、規制をしないといけないくらい多くの申請があったということだろう。

 

そして、いろいろな人と話をして情報交換を終えてからピッチに出てみた。無味乾燥とはこのことかと思うほど、決定的に何かが足りない。スタジアムのスタンドや屋根には、コーチや選手たちの声とボールを蹴る音だけだが響く。駅を降りた時に感じた違和感が更に増していった。それでも、感じ取れる情報は全て体験しておこうと思い、両チームの放つ独特な雰囲気を感じつつ、周囲の状況、メディアの状況にも目を配った。

 

 

試合開始15分前。スタンドにある記者席へ移動し席につく。人は多いが静かだ。すると、運営スタッフらしき人から、「(TVの)中継に支障をきたす可能性があるため、携帯はマナーモードでお願いします」という通達がされた。なるほど、この静寂の中では携帯電話の発する独特な電子音が耳障りになると思いながら、足元に置いた鞄からノートやスタメン表などを取り出し取材の準備を始めた。すると、上空にはバリバリと音をたてたヘリコプターが飛んできて、その音がやけに大きく聞こえる。上空からの様子も今日のニュースで使われるのだなと思いながら見上げた。すると、なんの前触れもなく選手たちがピッチに入ってくる。挨拶を終え、写真を取るために整列したときの「5,4,3,2,1」という声がやけに大きく聞こえた。スタンドからシャッターを切る音も大きい。シーンとした中で、必要なものだけが音を発していた。バーっと両チームの選手がピッチに広がり、それぞれが体を動かす。いよいよ試合開始だ。

 

主審の笛がピーっと鳴る。

 

清水ボールで試合が始まる。選手たちの声が通る。FKの壁を作るときや、マークの確認の声は特に大きく聞こえてくる。逆に試合中の声は数名が同時に発しているため、誰がどのように話をしているかの判断は難しい。けれども、何人もの選手が同時に意思伝達をしていることがよく分かった。それはある意味では収穫だった。特に中でもGKは声が大きいというのも発見だった。試合後、櫛引は「俺の声聞こえました?」と言っていたが、普段からコーチングに気をつけている選手にとってはやりやすかったのかもしれない。

 

試合の内容は割愛するが、前半に清水が先制し、後半に入ってから浦和が追いつき1-1で試合を終えた。試合後の取材をしていて感じたのは、どの選手も口々にモチベーションを上げるのが難しかったというようなことを話していたこと。全くその通りだと思った。言い換えると闘争心のスイッチを入れるのが難しかったということかもしれないが、ある清水の選手はこうも言っていた。「同点にされたあと、いつもの埼スタ(数万人の居るスタンド)ならサポーターの声とか雰囲気でもっと向こうの攻撃が強まったかもしれない。そういう意味ではお客さんが居ないことがこっちには有利になったのかもしれない」と。それだけサポーターの力というのは大きいのだ。声で選手の背中を押すということは、相手の戦意を削り取るという意味にもなり、この日はそうしたアドバンテージ(もしくはビハインド)が無かった。これは浦和にとって無観客試合がもたらした負の要素には違いないだろう。

 

実際、試合中にノートへメモを取りながら思ったのは、押せ押せムードになった浦和の攻撃に対してあまり怖さを感じなかった。前半はミスの大さもあっただろう。しかし、当然のことながら「わー!」とか「きゃー!!」といった声がない。反応のないゲーム。この練習試合のような雰囲気がそうさせているように思った。だから、ノートにちょっとメモをしているとあっという間に大事なプレーを見逃すこともあった。


しかも、どちらのチームの声もよく通り、一方に分があるという雰囲気にならない。攻める方の声も通るし、守る側の声も通る。そのため、どちらが優位かというよりも、どちらも声を出し聞こえているので、それなりに意思疎通ができているように見えた。そういった状況なので、守る方もそれなりに対応ができるので、バックラインから指示を出す声に焦りを含んだ印象もなく、声が届かずミスが生じるというようなシーンも少なかったのかもしれない(勿論、戦略的に崩されて決定機を作られるシーンはあったが)。そうなると、攻守で淡々とした作業をしているような雰囲気になる。そして、それはスタンドに伝播することもなく、どこにも影響を与えず、大きな盛り上がりに欠けたまま90分間が終了した。

 

試合終了後もサバサバとしていた。判定に対するブーイングは当然なく、プレー内容、結果に対するスタンドからの反応もない。そして、スタンドに向かって選手たちが挨拶をすることもなく、足早にロッカーへと引き上げていくだけだった。無観客試合が終わった。それだけが事実として残った。

 

試合とは裏腹に、むしろ試合後の記者会見は熱を帯びていた。両監督の会見はともに長かったし、メディアの質問内容にも熱があったためなのか、監督コメントが長かった。そして、ミックスゾーンを通り帰る選手たちも同様だった。何度もメディアに名前を呼ばれ、多くの人に囲まれた。そのたびに足を止め答えていく。特に得点を決めた原口、長沢はコメントを何度も求められた。TVの代表インタビューもあるし、新聞記者の囲みもある。現場は人が入り乱れてバタバタとした雰囲気だった。

それでもまあ、清水の選手にしれみればアウェイで勝ち点1を持って帰れるという意味では収穫だったかもしれない。が、得点を決めた長沢が、「いつものような大勢のサポーターの前で(リーグ戦初ゴールを)決めたかった」というのは何とも妙に納得できたコメントだった。

 

ひと通り取材を終え、記者室に戻り、身支度をして、知り合いに挨拶を終えると、そのままスタジアムを後にした。駅に戻るときのメディアバスの動きもスムーズだ。勿論帰りも渋滞など無い。駅の混乱もない。ただ、満足感のようなものはなく、こちらの心はゴチャゴチャとしている。そして、そのままの気持ちで、オファーを頂いていたラジオの番組に電話出演をした。上手く喋ることは苦手だが、今回の試合の意味や雰囲気を少しでも伝えられたらと思って話をした。電話を切り、暗くなった駅の街灯の下に立ちふと空を見上げると、少しだけ何かの役に立てた満足感を得ることができた。この日混乱をしていた心を整理できた瞬間、唯一の救いのときだったかもしれない。エスカレーターに乗って切符を握り改札へ向かった。

 

少しやわらかい電車のベンチに腰を下ろし一息ついた。

 

今回下された無観客試合という制裁が妥当だったのかどうか。選手たちにとってはどんな意味があったのか。また、クラブにとって、日本サッカー界にとって、Jリーグにとってどんな影響を残すのか。そして、サッカーを愛する人達にとってどんな感情を持たせたのだろうか。一度晴れたつもりの頭のなかの霧が再び広がったまま電車は発車した。


(C) 2014 tomo2take

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