先日、とある友人の一言から気になっていたことがある。
Jリーグのクラブは、どこまで情報を出せばいいのだろうか?
そして、メディアはどこまで情報を公開していいのだろうか?
取材をする立場の人間としては、あまり触れたくない話題かもしれない。しかし、敢えてこの時期に触れたいと思う。
・テーマは、クラブによる情報の取り扱いに関して。
取材を始めた頃からちょっと気になっていたのが、チームごとの情報の取り扱い。
応援するクラブのサポーターが一番気になっているのが情報。
試合結果は勿論だが、オフシーズンの移籍や加入のリリース、選手のイベント参加、メディアへの出演など多岐に渡る。
では、サポーターはどうやって情報を収集するのか?
近年はインターネットが普及したこともあって、自前でHPを持っていないクラブは皆無。だから、サポーターは応援するクラブの公式HPへアクセスして情報を得る。勿論、課金式の携帯サイトなどでも特別なコラムや情報を得ることもあるが、多くの情報は無料で手に入れられるようにになった。Jリーグ創設の頃とは環境が違い、もはやこれが当たり前の光景になった。
少し前までは、クラブの情報を得るにはサッカー雑誌やスポーツ新聞、オフィシャルマガジンなどを購入するか、TV番組やラジオ番組からでしかなかった。
しかし、最近ではツイッターやフェイスブック、Google+などSNSを利用して情報を拡散する方法も増えたため、Jリーグクラブも集客のためにそれを利用するのが当たり前の時代になってきている。広報がツイッターでつぶやいたりして、常にサポーターの欲を満たしてくれている。
・しかし、こうした公式の情報はどこまでがフリーで、どこからNGなのだろうか。
そんな情報過多となってきている昨今、その重要な情報に関してクラブはどのように扱っているのか…
そこで、シーズン前のこの大事な時期に、どのように各クラブは情報を取り扱っているのか以下の3点で調べた。
分かりやすくするため、練習試合の結果に関するリリースをサンプルにした。
そして、どのようなリリースの仕方をしたかを調べた。
□メンバー:試合のメンバーを公開しているか?
□試合結果:試合結果を公開しているか?
□得点者:得点者(時間)を公開しているか?
なぜ練習試合のデータを参考にしたのか、その理由は簡単。
この時期、最も知られたくない情報ソースだから。
そして、非公開となっていることが多いからだ。
ちょっと調べてみてすぐに感じたのは、各クラブでの練習試合の結果に関しての取り扱いは様々だということ。
チームニュースとして公式リリースを出しているところ、広報ブログなどの中でのみ公開しているところなど、HPで情報を見つけやすいクラブもあれば、どこにあるのか探すのに苦労するクラブも多く様々なクラブ事情が垣間見られた(Web業界的に言えば、情報の見つけにくさは公式HPもデザインや、ユーザーインターフェースの問題でもあるので一概には言えない。しかし、使いにくいということはそれだけでアピールのロスになっていると思うんだけれども(苦笑))。
ただ逆に言えば、こうした情報の取り扱いに関してどのようにするのかというのが、基本的にJリーグでも決まっていないということが分かった。
まあ当然のことだけど、基本的にこうした情報はクラブが行っているサービスの一部であるため、どこまで公開するか、しないかは、それぞれのクラブでの判断に委ねられているようだ。
では、J1在籍クラブからJ2クラブまでをざっと。
記号は以下のようにしている。
○:全て公開
△:一部公開
×:非公開
□J1
【ベガルタ仙台】
メンバー○
試合結果○
得点者○
【鹿島アントラーズ】
メンバー○
試合結果○
得点者○
【浦和レッズ】
メンバー○
試合結果○
得点者○
【大宮アルディージャ】
メンバー○
試合結果○
得点者○
【柏レイソル】
メンバー○
試合結果○
得点者○
【FC東京】
メンバー○
試合結果○
得点者○
※練習試合は別ページがありレポートつき。
【川崎フロンターレ】
メンバー×
試合結果○
得点者○
【横浜F・マリノス】
メンバー○
試合結果○
得点者○
【ヴァンフォーレ甲府】
メンバー×
試合結果○
得点者○
【アルビレックス新潟】
メンバー△
試合結果○
得点者○
【清水エスパルス】
メンバー○
試合結果○
得点者○
【名古屋グランパス】
メンバー○
試合結果○
得点者○
【ガンバ大阪】
メンバー×
試合結果○
得点者○
【セレッソ大阪】
メンバー○
試合結果○
得点者○
【ヴィッセル神戸】
メンバー×
試合結果○
得点者△
【サンフレッチェ広島】
メンバー×
試合結果○
得点者○
【徳島ヴォルティス】
メンバー×
試合結果○
得点者○
【サガン鳥栖】
メンバー×
試合結果○
得点者○
□J2
【コンサドーレ札幌】
メンバー×
試合結果○
得点者△
【モンテディオ山形】
メンバー○
試合結果○
得点者○
【水戸ホーリーホック】
メンバー×
試合結果○
得点者△
【栃木SC】
メンバー×
試合結果○
得点者△
【ザスパクサツ群馬】
メンバー×
試合結果○
得点者△
【ジェフユナイテッド千葉】
メンバー△
試合結果○
得点者△
※キャンプから非公開に
【東京ヴェルディ】
メンバー○
試合結果○
得点者○
【横浜FC】
メンバー×
試合結果○
得点者×
【湘南ベルマーレ】
メンバー×
試合結果○
得点者×
【松本山雅FC】
メンバー×
試合結果○
得点者○
【カターレ富山】
メンバー×
試合結果○
得点者○
【ジュビロ磐田】
メンバー×
試合結果○
得点者○
【FC岐阜】
メンバー×
試合結果○
得点者△
【京都サンガF.C.】
メンバー○
試合結果○
得点者○
【ファジアーノ岡山】
メンバー×
試合結果○
得点者△
【カマタマーレ讃岐】
メンバー×
試合結果○
得点者△
【愛媛FC】
メンバー○
試合結果○
得点者○
【アビスパ福岡】
メンバー×
試合結果○
得点者○
【ギラヴァンツ北九州】
メンバー○
試合結果○
得点者○
【V・ファーレン長崎】
メンバー×
試合結果○
得点者×
【ロアッソ熊本】
メンバー×
試合結果○
得点者○
【大分トリニータ】
メンバー×
試合結果○
得点者○
※得点者の△は得点者名は公開しているが、時間を公開していない場合など。また、試合ごとでメンバーが非公開の場合などを含む。
こうして見ると、試合結果はほぼ100%のクラブが何らかの形で情報を出している。
しかし、公式リリースとして出している場合、ブログ内だけで触れる場合など差があった。
得点者に関してもかなりバラバラ。
得点者の名前と時間までを正確に表記するクラブもあれば、得点者の名前のみという場合もあるし、得点者そのものも非公開というクラブもある。
メンバーに関しては多くのクラブが非公開。
公開している場合でも交代時間まで正確に表記しているクラブは少ない。
また、ほとんどのデータを惜しげも無く公開しているのはJ1クラブに多く、非公開にしているのはJ2のクラブに多いというのも特長のように感じた。
J2の中で優秀だなと思うのは東京V、京都、愛媛、北九州の4チーム。1本目、2本目、3本目など細かく先発メンバーまでを書かれているので、チーム内でどのような競争がされているのかよくわかるし、起用されているポジションなどを見てシステムなどを含め想像をしやすい。
勿論、クラブによっては登録ポジションでの表記というところもあるので、そのへんは少し想像を広げていかないと本当のシステムは見えてこないが、殆どのクラブが非公開としている中で素晴らしいと思った。
逆に、ニュースリリースとしての扱いがないクラブや、試合結果のみというクラブも多い。
これはそれぞれのクラブが決めたことなので仕方がないが、楽しみにしているサポーターにとっては不親切だし個人的には少し寂しいなと感じた。
■非公開にする理由、しない理由
当然、情報を出さない。非公開にするという決断もある。
そして、情報は勝敗に繋がる大事なソースであるため、非公開にするには理由がる。勝敗は賞金や順位、昇格や降格にも関係してくるので当たり前。だから、それはクラブの自由だ。
メンバーも得点者も非公開というのは、この時期ならば仕方がない。
控えている開幕戦のことを考えれば、対戦相手に少しでも情報を与えたくない。そういう心理が働くのは当然だし、勝利の確率を上げるために指揮官がそういう決断をするのは間違っていない。1%どころか、0.1%でも勝利の可能性を高めるというのが勝負の世界。
かつて某アラブの国の代表も、大一番を前に主力選手が怪我をしたというニュースをTV局までグルになってわざと流したりもしたし、日本代表も都並さんの怪我を試合直前までずっと隠し通した。こういう駆け引きは世界では当たり前のことだ。
かつて湘南を指揮した反町監督からも、こんな話を聞いたことがある。
五輪代表監督時代には相手チームの情報を得るために007みたいな真似事もしたし、クラブを指揮するようになってからも情報収集には余念が無かったという。
例えば、数日前から非公開練習をしているクラブとの対戦が控えていたとする。
しかし、反町さんは諦めない。
アウェイで前泊した時には地元TVのニュース、試合前日や当日のスポーツ新聞、地元新聞を絶対に目を通す。
何故ならば、地元TVや新聞にはほんの少しでも映像や写真が使われている。そして、そこには情報がある。小さくても、写っている選手の有無、ビブスを着ているか着ていないか、そのビブスの色が何色かなど。そういうところまで見ていると、僅かな可能性だが貴重な情報があるというのだ。成る程と思わせる話だった。
だから、どんなに非公開にしても情報がどこかから少しずつ漏れる。口コミで次情報が漏れることもある。そこを拾い集めるのも指揮官の役目だったりする。だから、クラブによっては情報を完全非公開とするのだ。
また、こんなケースもある。
クラブの公式HPでは公開しないが、いつも取材をしてくれいている番記者、メディアなどが書くぶんには目をつぶるというパターン。
これは、せっかく取材に来てくれているメディアに対しての配慮といえるのかもしれない。わざわざ取材に来てくれているのに、得点者のコメントまで書けないのでは原稿にならない。それでは申し訳ないので直接取材に来てくれたメディアに対しては少しだけど情報を出しますよ、というクラブ側の配慮だ。
しかし、中にはそれすらも「書かないで下さい」「聞かないで下さい」というパターンもある。
昔、あるクラブの担当者から聞いた話だが、リーグ戦終盤で大一番を控えた某クラブが練習試合で新システムを採用した。取材に来てくれているメディアは、いつも原稿を書いてくれて、多くの熱心なサポーターのためにクラブ情報を広めてくれている。しかし、どうしてもこの一戦だけは負けるわけにはいかない。
そこで指揮官が決断した答えは、自ら頭を下げることだった。
普段、戦術論やシステム論などそういう情報を一切出し惜しみしない指揮官だったが、このときばかりは頭を下げてメディアに頼んできた。だから各メディアも容認したという。
しかし、ならばそもそも練習試合自体を非公開にすれば良かったのではないか。完全非公開にしてメディアに憎まれても情報を出さなければよかったのに。敢えて公開してくれたのだから…というメディア側の思いもあったという。しかし、普段からの指揮官の姿勢、立ち振舞もあった。ギリギリの場面で頭を下げられた。正直な気持ちを吐露した。こういうところで男気を感じると、どんなに報道の自由だ!ジャーナリズムだ!といえど人として裏切ってはいけない一線があるんだということだ。
この話を聞いた時に少しゾクッとした。
ちなみに、取材をしている清水エスパルスは殆どの練習試合の結果を出し惜しみなくニュースリリースとして公開している。だからサポーターさんにとっては親切なクラブといえる。
今日も完全非公開にした練習試合だが、メンバーこそ書かれていないが、得点者や時間まで正確に記されている。こういうリリースをすれば、得点者からなんとなくメンバーは見えてしまうが、やらないのが清水エスパルスのスタイルだ。本当に真面目で素直すぎてびっくりしてしまう。
余談だが、元監督の長谷川健太さん時代では面白いエピソードがある。
ある開幕直前に行われた練習試合は非公開でのものだった。しかし、その練習試合後に囲み取材に対応した長谷川監督は「得点者は○○と○○で、結果は○○でした」といきなり言った。
その瞬間、囲み取材をしていた僕たちメディアは大爆笑したのは言うまでもない。
まあ、実はこの非公開は、「非公開」といえるほど密閉空間ではなかった…というオチもあるんだけど、指揮官自ら得点者とか結果までを話してしまうあたり…もしかしたら番記者との駆け引きが単に面倒だったのかもしれないけど、指揮官としての器が大きいなと感じたのだった。
長谷川健太さんは、現役時代とは違って凄く細かいところはビックリするくらい細かいし、とんでもなく厳しいのだが、メディアとの付き合い方というか距離感が絶妙で、こちらが欲する情報をこっそりと出してきたりして扱いが上手かった。
だから、不満を持たずストレスなく取材ができたと記憶している。
普段がこうなので、たまにクラブの広報から本気で「これは完全非公開ですので」と言われたときは素直に従うしかなくなるのだ。
こうした清水エスパルスや長谷川監督との絶妙なやりとりがあって、僕個人的には完全非公開というのはクラブ側の誠意が通じればなんの問題も無いと思っている。
ただ、基本的にはサッカークラブというのはサービス業なので、可能な限り情報を出しているところに関しては応援をしたいと思っている。
何故ならば、対戦相手に少しでも情報を与えたくないのならば、スタジアムなどを閉鎖して警備員を立て、情報を完全にシャットアウトする。そうやって完全非公開にしようと思えばできる。
しかし、「(おそらく)いつも応援してくれているサポーターのために」というサービス精神が根底にあり、そうしたポリシーに基づいて情報公開をしているというポリシーがあるクラブも多い。
だから、もしこのブログを読んで、応援するクラブがそういうクラブならば胸を張っていいと思う。俺が応援するクラブは勝負のリスクを負ってでも、サポーターの方を向いているのだ。そんな素晴らしいクラブなんだと。
逆に言えば、非公開にしているクラブにも理由があってそうしているということを理解しておきたいし、それはクラブのスタンスとして認めていきたい。
しかし、こうした情報を公開してくれているクラブに対しては敬意を持って付き合いたいと思う。