■期限付き移籍が増えた背景は

 

※まず先に

レンタル移籍(正式には期限付き移籍)の制度が導入されたのは1994年から。

2013年には試験的に、23歳以下の選手を期間限定で登録ウインドーの適用を受けずに行えた。

 

さて、今回このテーマで書いていくのは、このオフには多くのクラブから移籍のリリースが出されて、それを見ていたときに感じたこと。

そういう時期といえば時期だが、中でも特に気になったのは「期限付き移籍」の事例が多いように感じたからだ。それでデータを取って調べてみようと思ったが、手元には10年前の選手名鑑や節目となる1994年や2007年(理由はあとで記述)などがなく、あくまでも感覚的な情報となってしまうので説得力に欠けるという点が口惜しい。

(なので、あくまでも印象。僕の空想ですので裏付けはありませんよと)

 

ほんの数年前までならば選手の移籍というのは、「期限付き移籍」ではなく、「完全移籍」でのリリースが多かったという感覚がある(実際は契約満了でもリリースが出ない場合も多いので、一概には言えないかもしれないが)。

どちらかと言えば、「期限付き移籍」はシーズン途中(夏の移籍ウインドウ)でのことが多く、オフの場合はそれほどではなかったように思っている。だが、なぜこんなにも最近は「期限付き移籍」が多いのかと考えると、その理由はおおまかに2つあるように思う。

 

1つ目、ボスマン判決

2つ目、クラブライセンス制度

 

まず1つ目。

ボスマン判決とは、サッカー好きの人には釈迦に説法となるが簡単に。

これは、ベルギー人のごく普通の選手(失礼)が所属元クラブとの契約が切れ、その後オファーのあったフランスのクラブに移籍しようとしたときの話。ところが、元在籍していたクラブが急に移籍金を要求。これに怒ったボスマンさんが裁判を起こし(契約の切れたクラブの)所有権の破棄、その後は自由に移籍できる権利を勝ち取った。これがボスマン判決。つまり、どんな選手も契約が切れれば移籍金は発生せず自由に別のクラブに移籍できるというもの。

 

これで喜んだのはお金のあるビッククラブ。いい選手を(契約が切れていれば)移籍金を使わず獲得できる。しかし、逆に困ったのは小さいクラブ。いま在籍している選手を引き止めるには複数年の契約を提示しなければならない。そのためには強化費、潤沢な資金が必要となる。

 

そして、日本でも2005年に鹿島の中田浩二が0円でマルセイユ(仏)へと移籍し問題となった。それまでJリーグには年齢別に移籍係数が設定されており、そこで移籍金が発生する制度(2009年オフに改正)があった。そのめ、Jリーグは選手の所有権を主張するのが普通だったが、ボスマン判決のため欧州各国では0円移籍を主張した。これでは有望な選手がどんどん海外に出てしまう。それを恐れ、日本でも有望な選手と複数年契約をしてきた。そして、Jリーグ独自の移籍金精度の廃止によって、更に複数年契約への拍車がかかる。

 

そして2つ目。

クラブライセンス制度は、Jリーグが2013年から実地しているクラブの資格制度。簡単にいえば、協会が定めた基準をクリアしなければ、そのカテゴリー(リーグ)への参加を認めないというもの。審査されるのは、「競技」「施設」「組織運営・人事体制」「財務」「法務」の5分野で、それぞれのカテゴリーに基準を作りJ1,J2J3のライセンスが与えられる。

この制度が話題になったのは、2012年シーズンでの北九州のJ1 ライセンス問題でしょうか。三浦泰年監督を迎えJ2 リーグで躍進をみせた北九州。しかし、どんなに好成績をあげても(この時はプレーオフ圏内)ホームスタジアムの基準(席数の不足など施設整備面)がクリア出来ていなかったため、(プレーオフの参加も)2位以内に入ったとしてもJ1の昇格はできないと分かった。

また、よく話題になるのが赤字。 「3期連続の赤字で降格」というのは、これまで豊富な資産を持つ親会社がバックにいて、バンバンお金を使って赤字になっても、オフには親会社からの広告費として辻褄を合わせていたクラブがあった。しかし、そうやって赤字を垂れ流していた金満クラブにとっては「3年連続の赤字ならば、無条件で降格」というのは寝耳に水どころか、戦々恐々たるルールだった。これで、絶対に赤字を出せない。そういうプレッシャーがかかった。

 

 

■最大の理由はクラブの資金難

 

さて、本題に戻る。

ではなんで、期限付き移籍が多いのか?

 

各クラブは現在お金の工面にとても苦労している。いい選手を育てて優勝争いをしたい。それは当然のこと。

しかし、高年俸の選手は多く抱えられない。かといって、活躍著しい選手の年俸を上げなければモチベーションにも影響する。でも、それではクラブの運営は苦しくなるばかり。

しかも、いい選手と単年契約なんてしていれば、そのオフには0円で引き抜かれるリスクがある。それだけは避けたい。ならばある程度の経費を覚悟して複数年契約をしなくてはいけない。

だが、ここで頭を悩ませる。実績のある中堅選手ならばまだしも、若い選手(ルーキーなど)の場合は即活躍するかどうか予測ができない。チームの約束事も覚えるまでに時間がかかるし、実戦経験も少ないとなれば育成に時間をかけるしかない。だから、年俸の安い未知数の若い選手やルーキーでも複数年の契約をする。昔は若ければ若いほど他のクラブに移籍するときには高い移籍金を貰えたが、今は契約が切れれば0円だ。そこがクラブとしては難しい。

 

で、多くのチームは編成の段階でリスクは避けたい。となれば、他のクラブから移籍金のかからない期限付きで選手を貸してもらおうと考えるチームがある(特に資金に難のある小さなクラブ)。1人の選手を支配下登録した場合よりも、レンタルすれば安く済む。そういう傾向はJ2や下位のクラブ では更に強くなる。実力があるのにJ1 や強豪クラブで出番のない選手を借りてくる。そうすれば、資金圧迫も可能だし、チーム強化と合わせて考えれば一石二鳥だ。

 

一方、J1の クラブも、複数年契約をしている選手がチーム編成の段階(もしくは前年の成績)で出番が少なそうだと思えば、高い年俸を払っているよりもレンタルで他のクラブに出せば経費は抑えられる。しかも、いまはサテライトリーグの消滅によって、若手の実践の場がなくなった。ならば、レンタル先でリアルな経験を詰めるのは育成面では大助かり。更にそこで活躍すれば、最終的にはクラブの財産にもなる。そういう計算が働く。だから、こちらも一石二鳥。

 

借りてきたほうのクラブも、主力に育て上げることができれば、将来的にもチームにとって必要だという判断にできるし、その場合は完全移籍での買い取りも視野に入る(そういうオプション契約もある)。全く実績のない新人を獲得してきて、地道に育てていくには時間もお金もかかるが、その選手のスタイルも判っていて、しかもその選手が出場機会に飢えているならばレンタル移籍の制度を利用しない手はない。それが一番リスクも少ないかもしれない(支配下選手ではないから複数年契約などしないので財政面でも負担は少ない)。

 

しかも、場合によっては所属先クラブへの支払い、レンタルフィーを値切ることもできる。となれば、必要なのはその選手の年俸のみなんていう例も沢山あるという。

 

 

■貸す方にも借りる方にもメリットが有る

 

ここまで書けば明白だろう。

J1のクラブは余剰戦力の選手にも、リアリティのある実践の場を与えたい。そうやって育成して戦力に変えていきたい。

一方、J2J3JFL、地区などのクラブは、若くて才能のある選手を獲得したい(昇格を目指すならば当然だ)。しかも、できれば大金を使わずに。だから、期限付き移籍という選択肢が出てくる。

 

 

これは別に悪いことではないと思う。

なぜなら、選手にもクラブにも双方にメリットが有る。

選手側から見た場合、本人がプレーする場を求めている場合が殆どだ。「俺はもっとできる」、「とにかくピッチでプレーしたい」、「実力を証明したい」。そう考えるのは当然。

しかも、サッカー選手の寿命はそれほど長くない。Jリーグでは引退する年齢が平均で26歳だとも言われている。ぼやぼやしていたらすぐクビになる。そのためには試合に出て結果を残さなければならない。

クラブ側から見れば、公式戦に出場できれば実践経験を積ませることができる。トレーニングよりも実践から得ることのほうが何倍も多い。しかも、年俸はレンタル先のクラブが持つ。ヘタすればレンタルフィーまで入ってくる。マイナス要素は少ない。リスクがあるとすれば主力選手の予想外の怪我などか。

 

双方のそうした思惑が絡まって、近年は期限付き移籍のケースが多いように思う。しかし、J2などでは多くの成功例があり、それが拍車をかけているように感じている。