1月8日、ACミランへの移籍が発表された。
そして、10番を付けることが決まった。
その記者会見で、「ACミランで背番号10をつける意味は分かっているか?」と問われたとき本田はこう答える。
「夢が現実のものになってうれしい。12歳の時に、セリエAでプレーしたいと作文に書いた。背番号10をつけたいと思っていた」と。
そして、その後副会長のコメントから「本田は最初、4番か7番を希望していたが空いていなかった」ということが分かった。そして、10番が空いていることを知らせると喜んで受けたことがメディアにも伝わった。
しかも、その後「自信がなければ10番は着けない」とキッパリ言うあたり、流石というか、世界が注目する場所で物怖じせずに強心臓ぶりを発揮してくれた本田さんは本当にカッコ良かった。
■ACミランの歴代10番は
セリエAでリーグ優勝8回、カップ戦や欧州リーグなども含めると欧州いちのタイトルを獲得してきたのが赤と黒の名門、ACミランだ。しかも、バックにはイタリアのメディア王でもあり国の主席を務めたベルルスコーニが鎮座する。そんなビッククラブであるACミランの歴代10番は錚々たるメンバーが受け継いでいる。
ルート・フリット(オランダ代表) :黒いファルカン
デヤン・サビチェビッチ(旧ユーゴスラビア代表) :ジェニオ(天才)
ズボニミール・ボバン(クロアチア代表) :ゾロ・ズボーネ(怪傑ゾロ)
ルイ・コスタ(ポルトガル代表) :マエストロ(指揮者)
クラレンス・セードルフ(オランダ代表) :プレジテンテ(大統領)、プロフェッサー(教授)
ボアテング(ガーナ代表) :ザ・ボア(大蛇)、ザ・ビッグ・バン(宇宙の大爆発)
サッカーを少しでも知っていれば聞いたことのある名前ばかりだ。しかも、彼らはクラブだけでなく国の代表としても大いなる貢献を果たしてきたエース級の選手が顔を揃える。
そこに本田圭佑が名を刻んだ。
ちなみに、日本サッカーで10番と言えば、絶対的な司令塔、中盤の王様というイメージがある。それは多くの人がアニメ、キャプテン翼くんを見ていたからだろう。かなりその影響が大きいと思う。
おぼろげな記憶を紐解くとこうだ。
翼くんを一生懸命指導してくれたロベルト本郷だったが、翼には一言も告げず突然ブラジルに帰ってしまう。しかし、彼が残したノートには多くのアドバイスが書かれていた。
中でも、「中盤を制するものは世界を制する」と書かれていた言葉を信じた翼くんは、将来を見据えてFWからMFにポジションを変更する。
それ以来、日本ではエース=10番の司令塔というイメージが子供たちの間で浸透していった(と、TVで見たように思う)。
■Jリーグでの10番は?
さて、本田といえば香川と共に日本代表のエースで顔だ。
司令塔でもあり得点源でもあり、チームを鼓舞する精神的支柱でもある。
プレースタイルはというと、魔法の左足を駆使したパス、シュートで攻撃の中心となってゲームを作る。近年は世界で戦えるようにフィジカルも強化した、超近代的な司令塔といっていいだろう。
でも、10番って司令塔だけが背負うものなのか?というと、ちょっと違う。
本田は前所属のCSKAモスクワでは「7番」をつけていた。そして、日本代表では「4番」をつけている。移籍したACミランでも初めは4か7を希望していたことから、特に10番にこだわっているわけではなかったように思う。むしろ、日本人には7番のイメージが強いはずだ。10番でなければいけない、という感じではない。
ちなみに、現日本代表で10番を背負っているのは、マンチェスター・U所属の香川真司。彼のベースはドリブルで、自分が中心となってパスで味方を使うというよりも、攻撃の核に居ながらも味方に使われながら個性を出す。そして、局面ではまた味方を使うという感じの10番だ。
少し前の10番は、中村俊輔、名波浩、ラモス瑠偉といったところが着けており、このへんの名前からは多くの人が「司令塔」をイメージしやすい。
厳密に言えばそれぞれのタイプは少し違うが、いずれもチームの中心的な存在であり高い技術とパスセンスを駆使してゲームを作る純粋な司令塔タイプだった。
さてそこで、今シーズンのJリーグでは誰が10番を背負っているのか。また、どんな司令塔タイプが10番を背負っているのか、気になったので調べてみた。
□J1クラブ
広島 高萩洋次郎 (MF 31試合3得点10アシスト) トップ下
横浜FM 中村俊輔 (MF 33試合10得点6アシスト) トップ下
川崎F レナト (FW 28試合12得点11アシスト) 左SH
C大阪
鹿島 本山雅志 (MF 24試合0得点2アシスト) トップ下
浦和 マルシオ・リシャルデス (MF 26試合5得点3アシスト) トップ下
新潟 田中亜土夢 (MF 40試合4得点7アシスト) 左SH
FC東京 梶山陽平 (MF 8試合0得点0アシスト) セントラルMF
清水 大前元紀 (FW 14試合7得点4アシスト) 右SH
柏 レアンドロ・ドミンゲス (MF 12試合2得点3アシスト) 右SH、トップ下
名古屋 小川佳純 (MF 33試合9得点1アシスト) 左SH
鳥栖 キム・ミヌ (MF 33試合5得点4アシスト) 左SB
仙台 リャン・ヨンギ (MF 30試合4得点8アシスト) 左SH
大宮 渡邉大剛 (MF 33試合5得点5アシスト) 右SH
甲府 クリスティアーノ (FW 40試合16得点14アシスト(J2)) CF
G大阪 二川孝広 (MF 36試合4得点14アシスト(J2)) 左SH
神戸 森岡亮太 (MF 18試合5得6アシスト(j2)) FW
徳島 クレイトン・ドミンゲス (MF -試合-得点) セントラルMF?
□J2クラブ
湘南 菊池大介 (FW 30試合2得点1アシスト(J1)) トップ下
磐田 山田大記 (MF 30試合8得点3アシスト(J1)) 左SH
大分 チェ・ジョンハン (FW 28試合1得点3アシスト(J1)) 左WB
京都 工藤浩平 (MF 38試合2得点6アシスト) セントラルMF
千葉 兵働昭弘 (MF 30試合4得点1アシスト) 右SH
長崎 佐藤由紀彦 (MF 3試合0得点0アシスト)
松本 船山貴之 (FW 41試合11得点6アシスト) トップ下
札幌 宮澤裕樹 (MF 33試合2得点3アシスト) セントラルMF
栃木 杉本真 (MF 24試合4得点0アシスト) 左SH
山形 伊藤俊 (MF 33試合5得点9アシスト) 左SH
横浜FC 寺田紳一 (MF 38試合2得点4アシスト) 右SH
岡山 千明聖明 (MF 39試合1得点1アシスト) セントラルMF
東京V
福岡 城後寿 (FW 35試合5得点2アシスト) セントラルMF
水戸 船谷圭祐 (MF 13試合0得点1アシスト) 右SH
北九州 小手川宏基 (MF 41試合8得点8アシスト) 右SH
愛媛 原川力 (MF 7試合0得点0アシスト) 右SH、左SH
富山 苔口卓也 (FW 34試合11得点4アシスト) FW
熊本 養父雄仁 (MF 29試合2得点3アシスト) セントラルMF、左SH
草津 平繁龍一 (FW 41試合13得点5アシスト) FW
岐阜 美尾敦 (MF 40試合0得点4アシスト) トップ下
讃岐 高木和正 (MF 24試合1得点1アシスト) セントラルMF
※ポジションはFootball LAB[フットボールラボ]さんのHPを参照にして、昨年最も多く先発したポジションを選んでいる
ざっと調べると、なるほどやはり10番はチームの中心的選手が背負うことが多い。ポジションも攻撃的な選手が多いし、得点やアシストを見てもチームの核となる選手たちだ。それはやはりクラブも顔として期待しているという現れでもあるだろう。
■Jリーグの10番は、いくつかのタイプに分けることができそうだ。
登録上のポジションはFWかMF。
そして、出場ポジションは主にボランチかトップ下、またはサイドの選手が多い。
いわゆる、攻撃的なポジションということになる。
異例なのは鳥栖のキム・ミヌで、彼だけは左SBとしての先発回数が一番多かった。まあ、これは昨年だけのデータを調べたのでチーム事情ということだろう。もともと一昨年までは左サイドハーフで起用される事のほうが多かったので(今回のデータは)例外かなと。
また、1トップ(FW)で起用されているのが2人で、富山の苔口、草津の平繁となる。2トップの場合は、神戸の森岡、甲府のクリスティアーノ(前所属の栃木で)という具合だが、こうしてみると10番の(センター)FW起用は基本的には少ない。
ユベントスではカルロス・テヴェスなんて例もあるけど、ロベルト・バッジョ、デル・ピエーロ時代から見ていた僕からすると少し違和感がある(笑)。やはり昔からセンターFWといえば9番だろう。
また、最近では3-4-3システムを採用するチームが多くなっており、広島の高萩や浦和のマルシオ・リシャルデスのように、トップ下(シャドウ)の位置での出場が増えている傾向がある。
そして、一番多いのがサイドハーフ。オーソドックスな4-4-2や4-2-3-1システムの場合では最も起用されるのが多いようだ。
しかし、サイドハーフでもプレースタイルはいろいろだ。
例えば名古屋の小川、大宮の渡邉、新潟の田中などは縦へのスピードやドリブル突破でのチャンスメイクを得意としているタイプで、清水の大前や磐田の山田、仙台のリャン・ヨンギなどは周りを使いながらポジションを変えてラストパスやシュートで決定機を作るのが得意なタイプ。
あとは最近では少なくなったけど、北九州の佐藤のようなクロッサータイプもいる。元イングランド代表のベッカムなんてのもクロスだけで世界レベルで戦える特異な選手だった(けど彼は10番ではなく7番だね)。
純粋な司令塔という意味では、横浜FMの中村のように4-2-3-1の[3]の真ん中でプレーする選手も居る。
しかし、この場合でもそのポジションでドンと構えて動かないようなタイプは殆ど居ない。トップ下でもどちらかのサイドに開いたり、ボランチまで下がってゲームメイクをすることも多い。また、場合によってはゴール前に顔を出していく。こうした幅広い動きをするのがもはや当たり前になった。
勿論、攻撃のときには多くの選手がボールに絡みゴールに繋がる仕事を請け負っているのが10番だが、段々とそのポジションや役割も細分化されてきたし、こうして数名の例をみてもその役割は随分と変わってきたことが分かる。
かつて、王様のように君臨したコロンビア代表のバルデラマはもう居ない(これはこれで凄い格好いいし、そういう選手がまた出てきたら面白いとは思う)。
そして、その想像力をピッチで存分に披露してくれたイタリア代表のデル・ピエーロのようなファンタジスタも減ってきている。むしろ、今の日本にはタフで走れてパスが上手い選手が多くなった。
もしくは、フィジカルは強くないが、その差分を運動量で補うようなタイプが増えてきている。
スタミナやフィジカルで分が悪いと感じている選手は、ポジションを少し下げボランチの位置からゲームを作る。接触プレーを避ければスタミナも持つし、プレッシャーが少ない中で自慢のテクニックを披露していくというパターンも多い。
ちなみに言うと、J1とJ2では10番の選手のポジションに少し違いがある。
J1では前目のポジションが多いのに比べて、J2ではボランチの選手が多いというのが今回のデータから見ることができて面白かった。
これはなんの根拠もないが、J2リーグの特質なのか、それとも実績もあり技術の高い選手をボランチで使う指揮官が多いのだろうか?そういう決断によって、そのチームで最も効果的にプレーできるという答えが出てきているのだろうか。
まだこのへんはちょっとデータだけでは判断しかねるが、その謎には大変興味が出てきたし、今年は湘南がJ2で戦うので取材に行ったときは意識して見て行きたいと思う。
■個人的に気になる選手
最後に、個人的なまとめ。
キャプテン翼の翼くんのようなスーパーな選手というのは漫画の世界であって、そうそう現実でお目にかかることが難しいが、それでもJには素晴らしい10番が居る。
これは本物のファンタジスタだと思ったのが、広島の高萩。
変態的なトラップもそうだが、そこからのアイデア、パスは見事。彼は本物の天才だ。
いかにも司令塔、ザ10番というのが磐田の山田。
左右両足を遜色なく使えシュートの意識も高い。優等生な10番。
オールマイティな10番だと思うのは清水の大前。
小柄だけど、テクニックが高い。パス、ドリブル、シュートと三拍子揃った10番。
そしてJ2(昨シーズン含む)。
昨年は実際に見る機会があまり多くなかったのだが、気になっているのは松本の船山と神戸の森岡だ。ダイジェストの映像などを見ていると、シュート、パス、ドリブルと三拍子が揃った10番だと思うので、早くJ1のステージでのプレーを見たい選手だ。
と、まあここまで書いて結論は?と聞かれると、難しいが、J1、J2で10番を背負っている選手はいずれもチームの顔であることは分かる。
そして、10番ってどんなプレーをするの?司令塔ってなに?と、今回の本田圭佑の一件から不思議に思ってくれたり、このブログを読んで思ってくれたらと思う。
あとは自分で試合を見て欲しい。そうすれば10番ってどんな選手なのかイメージができると思う。
でも、悲しいけど既に10番はもう司令塔だけの役目ではなくなった。
時にはストライカーでもあり、時にはパサーの役割をしなければならないし、時にはチームのために守備をしなければならない。守備をサボる10番なんてのは既に抹殺された、もしくは死滅したといっていいだろう。走れない、走らない10番を指揮官は起用しないし、チームの中でもエースであることは許されない状況になってきている。だから、少しずつスタイルを変えて生き残ってきている。
本田が名門ACミランで10番を背負うことはオールドファンにとっては嬉しいが、単なる司令塔で終わらないで欲しいと思っている。そして、それが本田圭佑であると思っている。
そして、彼に続くような10番がJリーグから出てくることを期待して、開幕したら各クラブの背番号10をじっくり見てみるのも面白いかもしれない。へぇこんなスタイルなんだとか、ウイングバックが10番なんだなんて思いながら見てみるといいだろう。そうすると、その起用法や役割からチームの目指すスタイルや戦いかたが違うことがわかるので楽しいと思う。
そして、その10番の役目がチームを表現していたりするので、サッカーがもっと面白くなると思う。