■清水エスパルス vs 川崎フロンターレ PSM
2月16日 IAIスタジアム日本平 13時30分~
■結果
清水 5-1川崎F
■得点
清水:
平岡 康裕[27分]
ノヴァコヴィッチ[46分]
長沢 駿[51分]
ノヴァコヴィッチ[68分]
カルフィン ヨン ア ピン[88分]
川崎F:
森島 康仁[33分]
■先発
◇清水
----------長沢----------
高木俊----ノヴァ-----大前
------村松-----竹内-----
河井---ヨン---平岡---吉田
----------櫛引---------
◇川崎F
----------森島---------
可児------森谷-----金久保
------山本-----パウ----
山越---福森---谷口--武岡
----------杉山---------
■交代
長沢→高木善(63分)
竹内→本田(63分)
高木俊→村田(78分)
河井→六平(83分)
大前→石毛(83分)
ノヴァコヴィッチ→金子(91分)
川崎F:
杉山→西部(HT)
山本→實藤(HT)
可児→大島(HT)
パウリーニョ→小林(63分)
福森→中澤(65分)
森島→田中(68分)
■大量得点勝利から見えた強力な長身2トップ
関東圏では金曜日から大雪だったが、清水には雪の「ゆ」の字も感じられないほど暖かくポカポカ陽気。その中でPSMが開催された。
しかし、雪の影響は対戦相手の川崎Fには大有り。
川崎Fの選手に聞いてみたら「この3日間まったく練習もできない」という状況。更に、試合前日の夕方に清水へ到着した選手たちだが芝生の上で体を動かすこともできないままスタジアム入り。ピッチに立ったのは試合前の練習になってからだったという。
日本の大動脈、東名高速道路の封鎖などもあってバスでの移動も叶わず。各自、新幹線などで移動してきたが、こうした状況を考えると精神的な披露は勿論だが身体的な披露もあっただろう。試合途中で足をつる選手が多かったのもうなずける。だから、怪我を回避するため、動ける選手ということでスタメンには若い選手が多く名を連ねていたと思う。中村や大久保といったところは無理をさせるわけにはいかなかったと思うので、こういう先発メンバーになったのだろう。
そして、こういう状況でのPSMであり、結果だということを先に頭に入れておきたい。
さて、その試合だが終わってみれば5-1の大勝を収めた。
どんな相手でも勝利は別格。嬉しいものだ。
それではまず収穫から。
何と言っても2トップ(キックオフの並びは縦型)がゴールという形でしっかり結果を出したのは大きい。特にFWはゴールを決めることが一番の薬となるだけに、シーズン前にこれだけ得点を重ねることができれば自信を持って開幕戦を迎えることができる。
中でも長沢は清水エスパルスに戻ってきた今シーズン、練習試合で怒涛のゴールラッシュ(4得点)を記録しており、その好調さをこの試合でもしっかりと示した。
特に、ニアサイドで合わせるシュートが上手くなったし、多くなった印象がある。しかも、課題であるヘッドに力強さを加えた。ゴール以外でのシーンでも、前半と後半の立ち上がりに二度、吉田のクロスをニアサイドで合わせているがこういうシュートができるようになると、相手DFはPE内でエリアを守るのではなく人にくっついていかなければならないし、厄介で怖い存在であることを認識することになる。そして、ニアに走られるということは、マークにつくCBの1人がゴール前の危険なエリアから引っ張りされるということになる。となれば、ゴール前の高さは減る。
そうなると、もう一人の長身FWノヴァコヴィッチが活きてくる。
実際、この試合でも2得点したノヴァコヴィッチのシュートはどちらもファー(もしくは中)でのもの。特に前半ロスタイムのシーンは、はじめはファーに居た長沢がニアに走り、ニアにいたノヴァコヴィッチがバックステップを踏み中へ流れた。2選手がクロスの動きをした。このことでCBはマークをし辛い状況になった。
しかも、CBのマークはFWに対して各1人ずつ。190cmオーバーのノヴァコヴィッチに対し、普通に180cmそこその選手が1人マークに着くだけではシュートを阻止するのは難しくなる。
勿論、有能なCBはその10cmの差を埋める術を持っている。しかし、それでも確率の問題だろう。例えば1試合に10回、クロスに対して190cmオーバーのFWと競り合うシーンがあるとする。それを1人で対応した場合と、2人で対応する場合ではまるで勝率は違うものになる。たった1度もミスできないという状況か、それとも万全の体制でシュートさえ打たせなければ、残りの部分を味方の選手がカバーしてくれるのか、そうではないかではプレッシャーがまるで違う。
人数不足。そうなれば、ボランチが下がって挟み込みに行くのか、SBが中に寄せてCBを助けに行くのか。チームとしての守り方、対応も変わってくる。
まあ、そういう意味では長沢、ノヴァコヴィッチというツインタワーがゴール前に居るというのは大きな恐怖となる。サイドからのクロスを長身FWが中で合わせる。シンプルで判りやすい攻撃ではあるが他クラブにはない武器としてシーズンを戦えるように思う。
シンプルイズベストではないが、ゴチャゴチャしたプレーをするよりも簡単なのが強い。これは、今回のPSMを見た多くのチームが再認識したことだろう。
ちなみに、補足すると、10番大前、11番高木俊にゴールが生まれなかった点について心配する声もあるが、これは時間の問題かなと感じた。
何故ならば、高木俊のクロスにノヴァコヴィッチが合わせた1点目のシーンがあるが、その場面を振り返ると、ゴールを決めたノヴァコヴィッチの後ろには大前がDFと競り合って倒れていた。
また15分には大前のクロスにノヴァコヴィッチがシュートした場面(これはGKに止められた)があるが、このときは後ろに高木俊がしっかりと走りこんでいた。
ということは、ノヴァコヴィッチの頭の上をボールが越えてきた場合、もしくはDFとの競り合いで最悪ノヴァが倒れてしまった場合でも、更にファーへ走りこむ選手(大前や高木俊)がこぼれ球に合わせることができる。そういうシーンが今後出てくる可能性が高いということになる。
つまり、今はノヴァコヴィッチ、長沢が好調なため、シュートにも精度がありゴールに向かっているが、リーグ戦が開幕し彼ら2人へのマークが強まり万全の体制でシュートが打てない状況がでてきたとしても、3番目のシューターとして大前や高木俊への期待が高まってくる。ということでゴールは時間の問題かなと。しかし、本人たちにすればはやくゴールを決めて一つ落ち着きたいところであるには違いない。
とはいえ、ゴール前に人数を多くすることがゴール量産の肝であることは間違いないので、そういう意味では長身2トップ+1枚(サイドハーフ)がPE内に入っていくシーンが増えているのは、今シーズンの得点力アップに対して期待していいように感じた。
攻撃に関してもう一つ蛇足気味で書いておく。
サイド攻撃がここまで明確になると、SB吉田、河井の技術の高さが更に光るように感じた。というか、これで守備専門のSB起用はチームカラーとして可能性が低くなりそうだ。
大前、高木俊のキック力、技術があるのは勿論だが、吉田、河井のクロスの質も高かった。特に吉田や河井は、低い位置からもアーリー気味にカーブをかけて落とすキック、ポイントを狙ったクロスを蹴ることができるので、ニアに居る相手DFの頭を越えて味方FWに合わせるというシーンを作り出すことができる。
そして、大前、高木俊というJリーグを代表する看板アタッカーが居る清水の場合(昨シーズンまでの成績をみても明らかだけに)は、サイドで彼らを自由にしてはならない。となれば、大前、高木俊が高い位置を取った場合、そこに対してのマークは勿論強くなる。となれば、ワイドの低い位置でフリーの状況が多くなる。
もしくは、大前、高木俊に対してのマークを強めたい相手からすれば、その前後周辺でポジションを入れ替え、ボールの受け渡しをしながら、プレッシャーがない状況でクロスを上げる河井、吉田まで手が回らない。となると、この縦に居る2枚を抑えこむことができないチームはクロスからのシュート練習をしているかの如く、90分試合をしないといけないような状況になりそうだ。
相手からしたら守り方は2つ。
引いてスペースを埋める。果敢にプレスを仕掛け出処を抑える。
しかし、これだけFWが大きいと引いてスペースを埋めても上空のスペースを埋めることはできないので厳しい。となると、出処を抑えてクロスを入れさせないという選択肢が有効。ということで、高い位置からプレッシャーをかけるチームが今シーズンは増えそうだ。
■一方で見えた課題とは
大勝の裏で見えた課題というのは少ないが、あるといえばある。
試合後に監督も言っているが、この結果はあくまでも1つのバリエーション(長身2トップ)が有効であるという証明でしか無い。しかし逆に言えば、それ以外のバリエーションを披露するには足らなかったことになる。
流れの中でのゴール以外にも、FKとCKから平岡とキャラが得点を決めたことは大きな収穫。しかし、どちらも長身2トップがもたらしたプラスαの要素でもあるということもできる。それに、通常の状況でもセットプレーからの得点力アップというのはどのチームも課題にしており、その質を上げてきたことが結果として出ただけとも言える。特にキャラが苦手のヘディングで得点を決めたのは大きな成長だろう。
となると、気になるのは高さ以外の部分。
例えば、サイドを崩して入れたグラウンダーのクロスに対しFWがニアに入ってきて足元で合わせるシーンや、マイナスのクロスを走りこんできた中盤の選手がシュートするなど、3人目、4人目が絡んでいくといった攻撃があまり見られなかった点にある。
2トップが怖いのは結果を見ても明らかだし、ここまで書いてきた通り。
しかし、では2トップを警戒している相手に対してどう崩しにかかるのか。もしくは、横浜FMの中澤、栗原のような日本代表クラスのDFが居るチーム、広島や浦和のような3バックを使うチームなどは2対3で数的不利になったり、単純に高さだけでは崩し切れない状況が出てくる。
となったときに、ボールはサイドまで動くが単純にクロスを入れるのか?それでは前半の40分ころまでのようなサッカーにしかならない。
HTのコメントを見ても監督が少々お怒りだったのだが、そのへんの判断だったと思う。
ボールをサイドに持っていくまではスムーズにできたが、その先だ。2トップに合わせるのか、それとももう一度持ちなおして逆サイドに持っていく、もしくはドリブルで仕掛けてマークを1人外してからクロスを上げるのか。そうした変化、アクセントの判断が必要となる。などなど。
特に前半は、その傾向が顕著に出ていた。サイドにボールを持ってくと中盤がポッカリと空いてしまった。ボールは保持できた。しかし、クロスを跳ね返されたときに相手にセカンドボールを拾われ、カウンターを喰らうシーンが増えることになった。
特に川崎Fはボールを早めに前へ前へと運ぶチーム。そして、アタッキングサードに入ってくると複数の選手が絡み、左右、前後にボールと人を出し入れして、スペースを空け、マークを剥がすように動きで攻撃を作るチーム。それだけに相性が悪かった。これでは潰し屋の村松も対処できない。そして、中盤で村松のタックルが1発で決まらないと一気にピンチに陥った。
となると、攻撃では最後までやり切る必要がある。もしくは、そうできない場合はリスク回避をしながらもう一度ゲームを作り直して、ミドルシュートなどでゴール前の壁を崩す工夫が生じてくるが、このへんのアイデアが少し足りなかった。
そういう意味では、後半に高木善が出てきてからは中央にドリブルで流れてミドルシュートを放つなど積極的にアクセントを加えようというプレーが見られたのは良かった。2トップの長沢、ノヴァコヴィッチにしても高さだけでなく足元の技術も高いという、珍しいFWタイプだけにもう少し使い方があるように感じる。
サイドにボールを入れて単にクロスを上げるのではなく、SBを引っ張りだし、ボールを下げつつFWにくさびのパスを入れ、そのままワンタッチでリターンをシュート。もしくは、ノヴァコヴィッチならばDFを背負いながら強引にシュートという選択肢も出てくるだろう。
しかしまあ、PSMでどこまで手の内を見せるかという判断もあるので、全部見せたらリーグ戦開幕した時に完全丸裸なんてことになりかねないので、それはそれで良かったのだが、そういうシーンが1度でも2度でも出てきていたら、スタンドで見ている方にもバリエーションがあって良かったかなというのが今回の感想。
おそらく、こういう出てきた修正点に関しては次の練習試合でテストされると思うので、開幕戦までの時間をどのように使うかというのがこれからの課題。
ちなみに、前半ベンチから試合を見ていたある川崎Fの選手は、「仙台みたい」だと言っていた。「シンプルで判りやすいけど、FWがデカイし活かし方としてはいいと思う」とのこと。
この段階で言えるのは、このままサイド攻撃の清水というイメージを徹底し、選手間で共有いくこと、それがまずは開幕に向けて大事かなと。