2月16日、清水vs川崎FのPSMがあったが、その試合の前には沢登さん率いる【NOBORI ALL STARS】と元祖芸能人サッカーチームの【ザ・ミイラ】が、東北復興支援オープニングマッチを行った。
その中で、後半から【ザ・ミイラ】チームで出場した中田英寿が、前線からプレスを仕掛けてボールを奪うと、そのままミドルレンジからシュートを放ちゴールを奪った。得点は勿論だが、その他の全てのプレーを見ていて現役復帰しても十分に通用するレベルだと感じた。
特に、後方からのボールをトラップし、前を向いて、背筋がピンと伸びた姿勢からのパス。もしくは、そのまま1つフェイクを入れてからのドリブルなど、現役時代を彷彿とさせるプレーだった。
そして、彼の決めたゴールを見たときに、ふとセリアA時代のことを思い出した。
それは、中田ヒデの癖というか哲学のように感じた。
■GKの手前でバウンドするシュート
この試合での得点シーンを振り返る。
後半【ザ・ミイラ】チームで出場した中田ヒデは、中盤で相手ホルダーに対して背後からプレスを仕掛けてボールを奪う。すると、そのまま少しドリブルを入れ素早くミドルシュートを選択した。
相手ボールの状況から、高い位置でボールを奪ったシーンなので、守備陣系もまとまっていない。そこからシュートへの判断が素晴らしかった。
そして、放ったシュートはGKの手前でバウンドしてゴール隅に決まる。
そう、このシュートを見てハッとした。
ヒデは昔からGKの手前でバウンドするシュートを打つことが多い。
中田ヒデはペルージャに移籍した最初の試合でも2ゴールを決めているが、その1点目は右サイドからドリブルで仕掛けシュートを放ったもの。強引なように見えるが、GKの手前でバウンドしたボールはニアサイドを抜きネットを揺らした。
2点目はゴール前でのこぼれ球。ハーフボレー気味のシュートだったが、これも冷静に一度地面に叩きつけるシュートで決めている。
そう。中田ヒデは、シュートのシーンでは必ずといっていい程、意図的にGKの手前でバウンドするシュートを選択する。
勿論、状況に応じて使い分けている。コントロールしてコースを狙ったシュートや、敢えてループ気味に浮かしたシュートもある。時にはFKでパワー系のシュートを選択することもあった。
しかし、多くの場面で中田ヒデはGKの手前でバウンドするシュートを放つ。
それは何故か?
理由は簡単。ゴールが決まる確率が高いからだ。
競技は違うが、ハンドボールの場合もシュートの際には必ず一度バウンドさせろと言われる。これは、中学校の体育の時間に習った人も多いと思う。
何故かといえば、直線的なシュートよりも、一度バウンドさせるとGKにとってはコースを予測するのが難しく大変守り辛いからだ。そうなれば、ダイレクトに狙うシュートよりもゴールが決まる可能性が高い。だから一度バウンドさせる。
これを中田ヒデは当たり前のようにやっている。というよりは、毎朝起きたら歯を磨くというくらい、日常の習慣のようにやっていた。
以前、あるOB選手から「意外と、気持ちのいいシュートは試合では入らいないんだよね」という話を聞いたことがある。というのも、練習の際にインステップで綺麗に捉えたボールは打った選手も気持ちいいが、コースが単純で守るほうはやりやすいと聞いた。
豪快に決められる反面、ボールの軌道は単調。そのため、GKは予測したコース上に手を出せば簡単に弾くことができる。
しかし、GKの手前でバウンドするシュートはコースが読みにくい。
ここでもう一つ、野球を例にしてみる。
ピッチャーの投げる150km近いボールをキャッチャーがいとも簡単に捕球する。カーブやシュートは勿論だが、横にズレていくスライダーもほぼ確実にキャッチする。しかし、どんなに名捕手でも後逸するシーンを見たことがあると思う。大概、それはフォークボールのときか、もしくはピッチャーの投げたボールがバッターの手前でバウンドした場合などだ。
野手が守備に着く場合でも、「ミットを上から下に動かすな」、「ボールを迎えに行くな」、「ボールの正面に入れ」と言われる。ようは、ボールをしっかり捕るには、ボールの動きに合わせて下から上にバウンドを合わせてミットを動かすらしいのだが、バウンドするボールに上から迎えに行くと合わせられない。そして、そうしたバウンド処理が難しいため、ミスをしてもいいように体をボールの軌道上に入れておく。そうすると、最悪の場合でも体に当てることができればボールを後ろに逸らす可能性が下がる。ということになる。
まあ、要はストレートにくるボールに対しての対応に比べ、ワンバウンドするボールというのは入射角によってはバウンドの角度も変化する。そして、もしも芝の状況が悪ければバウンドの方向は一定ではなくなる。また、芝の状態が悪ければ大きく上にバウンドするかもしれないし、雨でスリッピーな状況ならばボールは芝の表面を滑るように走るかもしれない。
中田ヒデは、こうした状況を全て計算してシュートを放っている。というか、常に考えているからバウンドさせることが普通になっている。
しかも、常にゴールの右隅か左隅を狙うのだから、GKからすれば最悪のシュートとなる。
中田ヒデにしてみれば、ごくごく当たり前のことを当たり前しているだけかもしれない。
それはヒデの持論にある。
ヒデはU-17日本代表に選ばれたころ、同年代の財前宣之のプレーを見て愕然とした。本物の「ファンタジスタ」を目の前にしてヒデは自分の生き残る道を模索したのだと思う。
そして、考えついたのが自分が有利になる可能性を極限まで高めることと、相手になるべく多くの不確定要素を与えること。それはプレーをする上で当たり前のことなのだが、それをどんな状況でも実戦して実行することを突き詰めた。1%でも確率が高くなるのなら、それを普通にこなすこと。それがサッカーで生き残る道だった。
天才といわれることも多かった中田ヒデだが、実はまるで逆。真面目で理論的な性格だったのだろう。感性でプレーするのではなく、常に計算をしてリスク回避を常に考えた。そして、その中で最善の選択をする。まあ、そこまで突き詰めることができるというのはある意味では天才だったかもしれない。たったひとつの何気ないシュートシーンだったが、そこからいろいろなことを思い出した瞬間だった。
さて、では今のJリーグではそうしたシュートを意識しているFWは何人いるのだろうか?と、そんなことを思った。なので、Jリーグが開幕してからはFWのシュートに対しても意識して見てきたいと思う。