ソチ五輪を終え、フィギアスケートで6位となった浅田真央ちゃんが帰国。外国人特派員協会で会見を行ったというニュースを見ていて、この人が皆に愛される理由、メディアに好意的に扱わる理由はここにあるんだなと思いました。

 

そして、これはサッカーの現場でも参考になると思った。

 

・森元首相の発言に関する質問にも丁寧に答える。

 

今一番知りたいのは引退に関して。

そうしたきわどい話題をダイレクトにできるのが外国人特派員らしい。はじめは何%という明言を避けたものの、その後、繰り返して「何%ですか?」と聞かれたときに、浅田真央ちゃんは少しはにかみながら、「ハーフハーフです」と答えている。

 

勿論、大会が終わったばかり。メンタル的なことを考えると、この場での発言は難しい。しかも数字を名言などできない。そんなのは彼女自身も分かっている。しかし、場の雰囲気を考えると、0%とも100&とも答えにくい。それで出た答えが「ハーフハーフ」。現役とも引退とも取れる答えを出した。日本人らしいとういえばそれまで。しかし、これで日本のメディアはTVでも新聞でも、こぞって「ハーフハーフ」という部分を使える。現役引退!とも続行!とも書ける。

 

敢えて言わせて貰えるならば、ここでハーフハーフと言えたことが彼女の経験値の高さだった。メディアに扱われる発言、影響というのをしっかり理解していることを想像させた。

 

もし、真面目な顔で、「ここでは答えられません」とか、「今は考えられません」と言ったら?

場がシラケたのは言うまでもないし、引退か?とも書かれかねない。

そうなれば、ネガティブな印象がつく。

 

では、どう答えればよかったのか。

正解はないと思う。

が、微笑して「ハーフハーフです」って言われたら、そうかまだ現役続けてくれるのかもしれないんだと好意的に世界へ情報は発信される。それでもし、数カ月後に「やっぱり体力の限界ですから引退します」でも、「気力、体力が充実するまで休んで、また現役に復帰します」とでもなんとでも発信できるし会見もできる。これなら、誰も傷つかないし、本人も考える時間を得ることができる。そういう意味では100点に近い答だったと思う。まあ、いろいろと推察すれば、そうできない理由もあるだろうが、それはここでは知りません(笑)

 

そして、問題の森本首相の「あの子は大事なところで…」に関しての質問にもしっかりと答えている。

 

「人間なので失敗することもありますし、しょうがないとは思わないけれど、自分も失敗したくて失敗しているわけではないので、それはちょっと違うのかなと思った。けれど、森さんはそういうふうに思ったのではないのかなと思いました」

 

完全否定でも避難するでもない答え。しかし、誰が悪いということはなく、その後には「私は何とも思ってないけど、森さんが少し後悔をしているんじゃないですか」と付け足して笑いを誘った。しかも、ちょっと自分の考えを入れ、きちんと主張しているのも素晴らしい。外国人記者的に言えばスパイスの効いた答だったのではないだろうか。

 

映像を見ていると終始ほのぼのした会見だったという印象を受ける。外国人記者が相手だったため、そういう雰囲気作りも影響したのかもしれない。それが良かったのかもしれない。

 

 

・サッカーの場合はミックスゾーンでの取材が殆ど

 

ではサッカーの場合はどうか。

 

ちなみに、Jリーグの場合は試合が終わると、得点した選手やゲームキャプテンなど数名がTVカメラの前で代表して質問を受け、これとは他に選手たちがミックスゾーンを通り、そのときに記者に呼ばれ質問に答えるというやり方をしている。これが通常の取材方法となる。

 

そうした場所で、きわどい質問をする記者もいる。

勝った試合後はもちろん和気あいあいとしているが、負けた試合の場合はそういう傾向が強い。

 

状況としては11、もしくは1対多数の状況。なので、ここでしっかり答えられるかどうかはとても重要。上手く説明できればいいが、意図を汲んでくれない記者もいる。そういうときにどう対応すればいいのか。

 

また、敗戦した試合の場合はその原因を求められることもあるし、退場した試合などではその責任を問う質問をしてくる場合もある。そのときには発言を避け取材を拒否するという方法もある。

しかし、これではあまり良い印象を受けないし、場合によっては「○○選手、無言で立ち去る」と書かれることもある。そうなればイメージダウンは避けられない。

 

そっとしておいてやれよ。そう思うこともあるが、結局は記事を書くメディア側としてはコメントが欲しい。駄目なら駄目で、そういうコメント(もしくは態度、対応)が求められる。こればっかりは仕方がない。避けられないとも言える。Jリーグとクラブは収益のために試合を興行としている。そして、その試合に出場した選手たちには極力取材を受けるようにと会場にはミックスゾーンが設置されているのだから。

 

ではどうするか。浅田真央ちゃんの会見から感じたのは、答えにくい質問に対しても上手くユーモアを含めて応えるという手法だ。

 

まあ、そうなるには経験も必要だ。高卒や大卒1年目の選手が多くのメディアを前にして度胸満点で受け答えをできる方が普通ではない。でも、真面目に相手のことを考えて答えていけば、多くの場合はメディア側もその意図を理解しようとする。少なくとも誠意を持って対応すれば伝わると思っている。

 

・でも足りない日本の取材対応技術

 

アイススケートを取材できていないので浅田真央ちゃんの場合は分からないのだが、他の場合を例に考えてみる。

 

例えば、アメリカの大統領や日本の政治家。彼らには裏に必ず有能なコーディネーターがいる。選挙のときは選挙に勝たせるために専門のアドバイザーを付けるし、政党から秘書としてベテランが着くなんてこともある。

TVのタレントなども一緒で、会見をする場合はそのための原稿を書いている人もいるし、見栄えを考えて服などのコーディネイトもされている。ちょっと前には映画にもなったけど、謝罪会見専門のコーディネーターなんかも居たりする。美空ひばりや石原裕次郎、吉永小百合や山口百恵、ビンクレディーなどは、そういう役割を演じていた。

勝新太郎なんかも、麻薬所持の経験で勝新太郎とはこうである!というような発言をしたけど、あれも計算されたものだったのではないかとも思える。

 

話が逸れた。

そう、要はみんなアドバイザーが居るという話。

 

TVやメディアの前で発現するというのは、多くの人に情報を拡散できるというメリットがある。しかし、その半面リスクも生じている。なので、一度発したコメントは大事だし消せない。そして、画面に映った印象や内容はとても重要となる。

 

その昔、某老舗日本料理店の謝罪会見で、女将が平謝りしている社長の隣で「頭が真っ白になった、頭が真っ白になった…」とつぶやいていた映像を見たことがある人は多いと思う。また、某食品メーカーの社長が「私は寝ていなんだ!」なんて発言したのもあったけど、これらは最悪のパターン。どこにも誠意を感じないうえに、人を馬鹿にした印象を植えつけた。こうなると、そのイメージを変えるのは無理。もう一度信用を得ることも難しい。

 

サッカー選手の場合、試合の直後ということもありアドレナリンが出た状態。そのときに冷静に受け答えをしろというのは難しい。しかし、ならばこそしっかりと対応をしたい。

 

更に言えば、そこまできちんとしたアドバイスできる立場の人が居ないのが問題だと思っている。正確に言えばクラブの広報や先輩選手たち、もしくは大学や高校の恩師、親などがアドバイスをできる立場に居るが、いずれも彼らはに専門的な知識がある場合は少ない。

 

例えば、清水エスパルスの高木兄弟には、元プロ野球選手の父というお手本が近くにいる。そのため、父親の教え、考え方や発言の仕方などはメディア対応の際にはとても役立っているだろう。実際、彼らからはそういう印象を受ける。しかし、そんな環境にいるサッカー選手は少ない。

 

Jリーグには新人研修というのもある。しかし、その年に入団した選手を一箇所に集め僅か数日でやるのではなかなか隅々まで絵が届くとは言えない。そう考えると、各クラブごとで対応するしかない。広報が積極的に教えていくか、それとも専門家を雇って定期的に講習を受けるか。そういう対応をしてもいいように思う。

 

恐らく、サッカーの場合は代理人がそうした役割を担っているが、それでも常に一緒にいるわけではないのでなかなか難しいと言わざるをえない。

 

結論としては、結局のところ今は難しいというのが答えになってしまうが…(汗)

しかし、そろそろJリーグのイメージアップのためにも「メディア対応の専門家」「アドバイザー」というのがサッカー界でも出てもいいのではないかと思う。

某クラブの広報さんは、元新聞記者だったり、元専門紙の記者だったりするので、そういう人たちの活躍がこれからも必要だし、彼らの存在がこれからニーズとなっていくのもありかなと思う。

 

いずれにしせよ、浅田真央ちゃんの会見から感じた。おいおい、そこまで話題広げすぎじゃないか?と思われるかもしれないけど以前から思っていたのでエントリーしておく。